2006年5月11日 総務委員会
〜放送と通信の融合、NTT経営分離問題について vs松原聡参考人〜
○鈴木寛君
民主党・新緑風会の鈴木寛でございます。
三人の参考人の皆様方、本当に貴重な御意見をありがとうございました。
まず、松原参考人にお伺いをしたいと思いますが、先ほど懇談会の論点整理について御報告をいただきましてありがとうございました。
それで、幾つか御報告を聞いて、十分ということでございましたので、そういう意味でより詳しく御説明をいただきたいということでお伺いをしますが、先ほど五ページのこのNTTの在り方に関して四つの選択肢があるというお話がございました。
私のまず立場を申し上げますと、とにかくやっぱりユーザー第一だと、ユーザーがいかに安くてそして高品質のブロードバンドサービス、あるいは放送と通信の融合でありますから、そういうことに基づいた様々な新しいサービスも含めてこれを享受できるかと、このことがすべての施策の中心にあるべきだと。この点は恐らく松原参考人と同じスタンスだというふうに思います。それで、このNTT事業分野の四つの選択肢、まあいずれも考慮に値する選択肢だと思いますけれども、私は果たしてこの四つだけかなと、こういう思いを強くするわけでございます。
私も、九六年当時議論されましたNTTの再編の問題、当時、情報通信の政策立案に携わっていた者といたしまして、やはりIPのことを十分に見据えた、それを前提とした再編でなかったということについては松原参考人と認識を一緒にしております。かつ、当時、同じころアメリカで起こっていた通信の再編というものも横目で見てきたわけでありますけれども、率直に申し上げまして、先ほど井手参考人からお話がございましたが、この懇談会での議論というのはややアメリカの十年前の議論を後追いしているような感が否めないなということで、その点の補足をお願いしたいんですが。
私はこの四つの選択肢に加えて、要するに今の欧米で主流となっている選択肢、すなわち、むしろIP化が進んでどんどんどんどん業態が大きくなっていって、そして国際競争が物すごく激しくなっていると。そういう中で、先ほど井手参考人から、新しいAT&T、正に二〇〇六年の三月にベルサウスまで合体をしてしまうと、合弁をしてしまう、こういうお話がございました。こういう選択肢というのは日本では考慮の対象になってしかるべきではないかと、こういうふうに思うわけであります。
と申しますのも、結局、今、DSLについては、極めてこれうまい公正有効競争がなされたと、関係者のすべての御努力によって。そして、今懸念は、そのブロードバンドの本格版である光ファイバーの問題について、要するにNTTを議論しているわけでありますからその点だと思いますが、私の認識は大都市圏においては公正競争が行われていると思いますし、地方のシェアの高いのはむしろこれはユニバーサルサービスの問題であってという認識がありますが、百歩譲ってここに若干のその心配、懸念があるとしても、私は改めて松原先生のお書きになった「民営化と規制緩和」という御本を確認をさせていただきました。
私も、これ以前より参照させていただきましたが、その三十九ページで、コンテスタブル・マーケット・セオリーと交差弾力性理論の御紹介があります。すなわち、参入圧力や業態間競争がある場合には、現実の競争の不成立をもって直ちにその規制をすることが正当化されるわけではないということを非常に明快にお書きになっております。正に競争の成立いかんは参入圧力や業態間競争をも考慮に入れた上でなければ問えないこととなるということなわけでありますが、この理論は極めて、非常に明快な理論だと思いますが。
これを光ファイバーのことに当てはめますと、正にその業態間競争ということで、要するにIP化が進むということは正にこの業態間競争を促進するということになるわけで、具体的には例えばWiMAXのようなものが出てくれば、これは明らかに、ここでは要するにガスと電力の例を引かれていますけれども、正にWiMAXと光ファイバーということでの業態間競争が起こるわけでありますし、まあ参入圧力についても、KDDIグループとかあるいはソフトバンクグループも統合を進めて、非常にその何といいますか立派なプレーヤーに成長しつつあるという中で、参入圧力はこれはもう十分にあると。
こういうことを考えますと、むしろあれ、なぜAT&Tが更に更にこのように合併をしているのか、それは例えば中国とかインドとかアジアの市場においてブリティッシュ・テレコムとの大変な競争にどう打ち勝っていくか、こういう観点、それからこの世界、まあ私もいろいろずっと勉強をしておりますが、結局その知的財産政策と競争政策をどういうふうにバランスさせるかという大変難しい問題で、かつウィナー・テークス・オールですから、要するに一番最初の技術開発で負けてしまえば、要するにオールロスするわけですね。そういう中での欧米の判断の中でこういうことになっているんだろうと。
こういうことを考えますと、私は先ほどの四つに加えて、やはり欧米を参考にした業態論の在り方というのはあってしかるべきだというふうに思うんですが、この点はどういう御議論があっているのか、教えていただければありがたいと思います。
○参考人(松原聡君)
まず、これから先、どういうような形の電気通信事業における競争がいいのかと、こういう議論はもちろん必要なわけです。おっしゃるように、WiMAXもあればPLCもあるし、いろいろな新しい技術があると。技術中立でなければいけない、それから競争環境を整えなければいけない、それは当然のことだと思うんです。
しかし、私どもの認識は、その前に今のNTTの現状についてどう考えるか、ここが一番大きなポイントだと思っておりまして、今委員の御指摘があったように、九六年に議論されて九六年の秋ぐらいに合意した今のNTTの再編のスキームを見ると、これはやはり非常に問題が多いと。まずそこを何とか変えることが第一だと、このように認識しているわけです。
どこに問題があるかというと、御指摘のように、IPを前提としていないメタルの電話網を想定した分割のスキームでした。ですから、持ち株会社の下にNTTの東と西、それからドコモ、コミュニケーションズ、それからデータが主としてぶら下がるような形になっていますが、NTTの東と西に関してユニバーサルサービスの義務が課せられる一方で県内通信に特化させられている、それからNTTの東と西は静岡県辺りで分断させられている、そういう分け方自体が今のIP化の時代からすると大変そぐわない形になっていると、そこがすべての問題のまず根底にあるわけです。
今のままでいいわけがないでしょうと。その東と西が特殊会社として種々の規制を受けながら、その一方でコミュニケーションズは県間と国際はどうぞ自由にやってください、こういう形になっている。そういう性格を異にする企業が持ち株会社の下にぶら下がっていると。そのような形でこれから先うまくいくのかというと、私どもはうまくいかないだろうと、こういう認識に立っているわけです。
その際に、例えば委員の御指摘のように、通信、放送が融合しているわけです。それから、通信の中で見てもFMCで携帯と固定の融合も進んでいるわけです。そのときに、今のNTTの形はそれが法律上無理やり分けさせられている。その無理やり分けさせられている中でNTTは頑張ってシームレスと言っていますけれども、それは基本的に無理なことをやっているのではないかと、こう思っているわけです。そうなると、まず今のNTTのスキームというもの自体がIPにそぐわないという認識が一点です。
それからもう一点は、そのNTTが持つ市場支配力、とりわけボトルネック部分の独占性、ドミナンス性についてどう考えるかでありまして、まずメタルに関しては、これは間違いなく独占性があったわけであります。
それで、光に関してどうだと、こういう御質問でありますが、光に関しては、メタルに関しては今四割ぐらいまでDSLではそのシェアが落ちておりますが、光に関しては六割ぐらいであります。ここが難しいところで、メタルに関しては既にあるネットワークを開放したわけですから、開放は非常に易しかったわけです、ある意味ではですよ。しかし、光のように建設しながらということになると、その営業活動と建設活動みたいなものが一体化していて、結果的にそのことがシェアを高めている懸念があると。そうなると、やはり一つの事業者が六割ぐらいのシェアを占める状況というのは好ましくないのではないかと、こういう判断です。
それで、最後に一点、委員がおっしゃった、我々が四つ考えたうちで五つ目があるのではないかといったような御指摘だと思います。統合の側面があるのではないかと。
私どもが考えている例えば第四の資本分離というのは、実はNTT法も廃止ですから、東も西もいろいろな規制をなくして自由な事業会社にすると、こういう発想ですから、その自由な事業会社にいったんした後に当然統合はあるだろうと、統合があってもしかるべきだと。しかし、そのときには当然独禁法のような市場支配力によるチェックは必要ですけれども、しかしそのプロセスを経ないで、今の九九年のスキームのままでごちゃごちゃやっていると、それはいろんな意味での公正な競争条件としてはおかしいと。仮にゴールがそういうところにあるにしても、そのステップは絶対に必要だと、こういうふうに考えておりますので、四は実は先生がおっしゃった第五のところを含意していると考えていただきたい。
○鈴木寛君
資本分離ということがかなり前面に出ておりますので、今の先生で半分ぐらい、かなりその誤解が解けたわけでありますが、私もNTT法をきちっと見直して、そしてきちっと他の事業体、他の業態と同じように独禁法制を掛けていくということは有力な選択肢だと思っています。でありますので、是非きちっとそうした議論も、この二、三、四、どれも聞くと、分離分離分離と聞こえるものですから、やはり正しい在り方を見据えていただきたいということは、これはお願いでございます。
ただ、一方で、世界でやっと、やっと、私が九五年に担当しましたときは世界で二十二番とか三番ですよ、それがやっと世界一のブロードバンド環境になったと。むしろここは世界マーケットに対して今度は攻めを挑んでいくと、こういうふうなステージで、じゃ逆に言うと、いろいろ確かにいびつなものはありつつも現在日本のユーザーは困っているんだろうか、あるいはこれから日本のユーザーの観点から立ったときに、何が望ましいのかという観点で是非いろいろな選択肢について更なる議論を深めていただきたいということをお願いを申し上げたいと思います。
それと、済みません、時間が余りありませんので手短にお願いをしたいんですが、基礎研究の分離の話が、これも出ております。これも私、少し違和感がありますのは、私も、いわゆるこのICTの分野のRアンドDマネジメントということを少し勉強してきた者として申し上げると、基礎と応用というのが一番分離しにくいのがこのICTのRアンドDの世界だというふうに思います。
例えば、創薬のような場合は、要するに基礎研究になってから臨床まで、安全性チェックとか人体のチェックみたいな話がありますけれども、例えばノーベル賞を取ったショックレーなんかは、これはむしろ応用研究所の所長が基礎で取ったり、あるいは村井純先生というのは、元々これは数理科学のプロフェッショナルなわけでありますが。でありますから、基礎と応用というのはこれは峻別できない。
特に、これは、例えばソフトウエアというのはアルゴリズムそのものですから、ほとんど数学なわけですね。それから、例えばハードで申し上げると、光の光源、これは正に量子井戸効果とか、正に量子力学そのものなわけで、この分野において、何か概念的に基礎とか応用とかというと分かりやすいんでありますが、もう少し技術実態を見た議論というものが私は必要ではないかと。
なぜ、DSLの世界では日本が韓国とアメリカに負けてしまったけれども、光ファイバーにおいては成功できたかと。幾つかの要因が私はあると思います。それはすなわち、ソフトウエアとハードウエアと、それからそのメンテナンスのヒューマンウエアと、ここが統合的にといいますか有機的にその開発と、そしてこういうものというのはいわゆる複雑系といいますか、それぞれの技術開発を合わせてテストベッドで実証してみて、そこからのレスポンス、フィードバックでもってもう一回開発をするという、こういう研究サイクルというのが非常に重要になってくるわけで、光のことだけで申し上げると、このバランスが我が国においては良かったなということはやっぱり評価せざるを得ないと思うんですね。
そのことを踏まえて、私は、別に放送分野の研究と通信分野の研究の融合、これはどんどんやった方がいいと思いますが、しかし、まあそういう点を踏まえていただきたいと。
それから、まあ言葉じりかもしれませんけれども、五ページの中で、分散しているのは問題ではないかと、こうおっしゃるんですが、これはポストモダン型の特に不確実性の高い基礎研究においてはむしろ自立分散して、しかしながらそのテーマごとにコラボレーションをしていくということが、どっちの、スコープが広い、要するに数撃たなきゃいけないわけですね。要するに、シリコンバレーにおけるRアンドDのいいのは、一杯いろんな人たちが自立的に研究していると。しかし、そのコラボレーションが組織と組織じゃなくて、いろんな個人も含めた、絡み合っているというところがあれなものですから、分散しているのは問題ではないかという表現は問題ではないかというふうな印象を持ったわけでありますが、この点いかがかと。
それから、ちょっと済みません、もう時間がないので、縦割りから横割りに放送と通信の法制、法体系を変えるというお話があった。これも私は総論としては賛成であります。しかしながら、放送については規制をしなけれりゃいけない理由は、正に電波の有限性です。ここはやはり引き続き残らざるを得ないというふうに思っていますが、いわゆる通信について、これは無線通信のことも入っているのかどうか、そこがよく分からないんですけれども、通信についてはさっき申し上げましたように、電気通信事業者としての届出をして何をしているかというと、情報が常に取れるとか、役所とコミュニケーションが取れると、いろんな事態においてですね、不正アクセスとか有事とかいろんなことがありますから、そういう意味での最小限の届出制のようなことは必要だと思いますが、いわゆる業態規制については、通信について私は不要な方向に行くのではないかと。そうしたときに横割りにといったときに、これ通信については何が残るんだろうかと、こういうことを懸念するわけです。
我々がずっと一貫して懸念していたことは、放送というのはどうしてもコンテンツ規制の部分が掛かりますよね、中立の報道のこととかですね。こういうことが決して通信の分野に及ばないようにしなければいけないという、いろいろな懸念があるわけで、そうしたことについて是非御留意をいただきながら御議論を更に進めていただきたいなと思いますが、御所見と御感想をいただければと思います。
○参考人(松原聡君)
まず一点だけ。世界一のブロードバンド大国になったのは、これはNTTが頑張ったからではなくて、電気通信事業法でしっかりとした開放義務が課せられたことだと認識しておりますので、だからNTTをそのまま強化すればいいという話には論理的にはつながらないという認識を持っております。
それから、基礎研究についてお話しさせていただきますと、ここにいろいろな文言がございまして、分散、分散こそが大事なんじゃないかと、それはもうおっしゃるとおりだと思います。
むしろ私どもがその基礎研究について問題と思いましたのは、NHKとNTTというのがそれぞれ法律で技術開発を義務付けられていると。NHKは放送、言ってみればNTTは通信の技術開発を法的に義務付けられていると。その経緯をたどれば、NHKがやはり放送事業者の中で圧倒的なシェアを持っていた、それはNHKに対して放送の技術開発を義務付けるそれは合理性があったと。今はシェアは半分以下になっているわけです、六千億しかないわけですから、二兆以上の中でですね。じゃ、そのNHKに法律上義務付けることの意味はあるのか。同じような意味で、通信に関しても、電電公社一社独占だった場合には、それは通信の電電公社が一社だから、そこが通信の技術開発をやりなさいと法的に義務付けられていると。
しかし、このように通信も放送も多様化していろいろな競合的な事業者が出てきたときに、一社だけにそういう義務を課していることが、もしかしたら技術の独占に結果的にはつながらないか、オープンにする義務があるのは十分承知していますが、結果的にそういうことにつながらないか。そのことに合理性があるのかということをしっかり見直していきたいと。こういうところが実はこの問題提起の根底にあるわけです。
さらに、分散はそのとおりなんですけれども、しかし、ベースが通信でちょっと放送に出ているとか、NTTは、逆にNHKは放送がベースだけどちょっと通信に出ているとか、その辺りが法律で規制されている中で本来の通信、放送にふさわしい技術開発ができているかと、こういう問題意識も同時にあるわけです。
更に言えば、例えばNTT法が廃止されるような世界を想定すれば、時期を想定すれば、そういう技術開発義務自体をNTTが負わなくなると、そういうことも想定したときに、やはり今の技術開発の体制というもの、放送がNHK、通信がNTT、その一方でNICTという国の独立行政法人もあると。この辺りの検討、再検討は必要だろうということです。
ただ、それをどうすればいいかについてはまだ議論をしている最中でありまして、先生がおっしゃった分散が大事だとか、それからICTに関してはとりわけ基礎と応用が切り離せないんだという御指摘も大事だと思いますので、そこは考えていきたいと思っております。
それから、コンテンツを含めた縦割りと横割りの法規制の問題についてでありまして、横割りにしていくということは、例えば伝送に関していうと、放送の側も電波も使うし、それから光ファイバーも使う、こういう形になってきている。一方で、通信の方が一対一から一対nになって、映像も流せるようになってくると。そうすると、例えば伝送路に関して、今は届出、免許ごちゃごちゃになっていますから、それが実態的に一緒になりつつあるのであれば、それにふさわしい横割りの規制にすべきであろうと。
それから、コンテンツに関して、おっしゃるように、放送に関してはコンテンツ規制があるわけです。逆に、通信に関しては憲法の通信の秘密ですから、コンテンツ規制を逆にしちゃいけないわけです。しかし、通信の中で事実上放送的な一対nの映像配信サービスが多様化してくると、出てくると、実はそれは多分に通信の中で放送的な部分になってきているわけで、それを今のままでいいかというと、その部分を包含したようなコンテンツ規制がもしかしたら必要かもしれなくて、当然そうなると一対一の電話みたいなものはその枠の外にあるのはもう言うまでもないことでありまして、そういう意味で、レーヤーごとに今の縦割りをできれば横割りにしていきたいと。でも、完全に全部横になるかというと、例えばコンテンツに関しては規制していい部分と絶対しちゃいけない部分と分かれるのが当然だと、そういう認識でおります。