NO.33 審議拒否か?審議充実か?いずれをとるか、それが問題だ。
2004.04.04 


本当に大忙しの国会です。特に、今国会は、文教委員会理事として、
また、東京都連選対事務局長として、水面下での調整の毎日です。
なかなか、勉強になるのと同時に、政治のOS入れ変えについて
今までも話題にしてきましたが、国会運営の方法についてのOSも
大きな転機に差しかかっているなあということを痛感いたします。

民主党菅直人代表の強い意向を受けて、年金法案に関し、
衆議院民主党は、冒頭から審議拒否に入りました。これは
年度末までの野田国会対策委員長の国会運営方針を大きく
変更するものです。

即ち、55年体制から連綿と継承されている野党の国会運営の常識は、
口汚くいえば、野党たるもの与党から提出される法案や予算に対して、
とにかく、可能な限りイチャモンをつけ、少しでも納得いかなければ
寝て(審議ストップ・審議拒否)、採決日を遅らせ、特に可決させたくない
重要法案の審議は、ずるずる延ばし、国会会期終了・時間切れ廃案を
狙うという戦略をとってきました。それに対して、与党は、どうしても
成立させたい場合は、会期末ギリギリに強行採決に踏み切きり、可決を
図るというのが、いわば、国会の常識になっていました。そのなかで、
儀礼的な国会乱闘が会期末恒例行事として行われています。

こうした野党の国会運営に対しては、昔を懐かしむ有権者の方々からは、
最近の野党は儀礼的でだらしないとお叱りを受ける一方で、良識派の
有権者の方々からは、国会における審議拒否や乱闘は、国民として
見るに忍びないので、きちんと野党も議論に応じて、論戦のなかで
問題点を浮き彫りにして、よりよい法案づくりに奮闘してほしいという
正論が寄せられます。

今国会前半においては、民主党野田国会対策委員長は、
いわば、こうした正論にかなり応えた運営を行ったと思います。
審議拒否や、いわれなき審議引き伸ばしは、ほとんどなくなり、
その結果、今までの国会に比べて、年度末までの各委員会における
延べ審議時間は相当増えました。それに伴い、特に、委員会での
議論内容の質はかなり上がりました。中身の濃い問題提起・対案の
提案などが数多く出されました。各委員会の質疑は、テレビ等での
放映は皆無ですが、ぜひ一度、各委員会の議事録をご覧ください。

しかし、その結果、何が起きたか?というと、与党は、審議ストップを
控える野党の足元を見て、委員会質疑では、すれ違い答弁や
こんにゃく問答に終始し、いたずらに時間を浪費し、一定の審議時間を
経ると、多数に任せて、霞ヶ関の作った政府原案を一文字すら
修正することなくどんどん採決をするということになってしまいました。
そうした状況をみて、マスコミでは、ベタ凪の前半国会などと、
野党のふがいなさを叱責する論調が目立つようになりました。
そうした、論調も感じ取って、菅代表が、国会運営の基本方針を
従来パターンに戻し、一転、審議拒否ということになったのです。

皆さんは、どちらのやり方を支持しますか? つまり、民主党は
審議拒否を多用し、年金などの重要法案の廃案を目指す
べきなのか? あくまで民主主義の本旨にのっとり、審議拒否は
極力行わず、議論時間を十分確保しながら、論争の内容の
充実を目指すべきなのか? 本当に悩ましい問題です。

どうして、この二つの選択肢しかないのでしょうか? その理由は、
官僚の従属する自民党の構造そのものにあります。日本と他国の
国会とで、決定的に違うことが一つあります。他国では、法案の
議論を煮詰めるなかで、問題が浮かびあがるたびに、どんどん
修正がなされ、法案の中身が進化していきます。修正を行うことに
与党は何の抵抗もなく、いいものであれば、どんどん積極的に
対応します。これこそが、あるべき法案審議です。

しかし、日本では、いかなる問題が露呈しようとも、与党は、一切
条文修正に応じません。理由は、面子です。与党は多数を
もっていますから最後は何でもできます。政府から提案された
法案を無傷で早く可決させるのが、与党の理事の仕事であり、
法案提出省庁の幹部職員の責務であるというおかしな常識が
まかり通っています。その結果、与党議員ですら、あれ?おかしいな!
と内心思っている法案がどんどん可決していくのです。先に可決された
義務教育国庫負担法の改正など、その最たる例です。結局、
自民党が法案づくりを霞ヶ関に丸投げにし、霞ヶ関になんでもかんでも
頼り切ってきたことのツケが回ってきているのです。よりよい中身の
法案をつくることよりも、霞ヶ関の面子を立てることに異常なまでに
与党が執着することによって国会審議がどんどん空洞化しています。

野党のほうも、いい議論をしても、所詮、法案の中身は、
与党多数のもとでは変わらないから、野党の意地をどれだけ
見せつけるかという観点から、審議日程を極力引き伸ばして、
与党・政府側を時間切れ・廃案になってしまうぞと脅かして
冷や冷やさせることに奔走することになっています。当初予定や
前例よりも、数日、採決日を遅くしてやったぞといった自己満足的
会話が野党議員間で交わされているのをよく聞きますが、
むなしい限りです。国民の目からみれば、法案可決日の数日の
前後など、単なる小競り合いでしかありません。そんなことが、
与野党攻防の争点になり、国会議員やマスコミなど永田町関係者は
一喜一憂しているのです。

もちろん、最近、いくつかの例外が生まれつつあります。昨年の私が
所属した法務委員会では、政府提出法案のうち複数の法案について、
条文の修正が委員会質疑を通じてなされました。世界の議会の
常識からみれば、あたりまえのことですが、日本の議会では、
大変、珍しいことです。これはひとえに、法務省が柔軟だったことに
よります。裁判所からの出向者が法案責任者であったことも影響して
いるような気がします。役人の場合、提出法案が修正されることは
傷になりますが、裁判官であれば、出向中に提出した法案が合理的
修正されたところで、なんら経歴に傷はつきませんから。

また、昨年、審議された国立大学法人法案では、条文本体に
匹敵するような内容と分量の附帯決議が付され、条文修正に
匹敵する法案運用の枠組みを設定することができました。
私個人としては、縁のあった法案については審議を充実させ、
法案の中身・運用を実質的に進化させていこうと努力し、それなりの
実績を納めてきたつもりですが、そうしたことについては、マスコミには
あまり関心をもってもらえず、政局論ばかりが報じられています。
与党議員ですら内心賛同しているような修正案を民主党が提案しても、
こんなリーゾナブルな修正案がなぜ賛成を得られないのか?
おかしいじゃないか!といった報道は未だに皆無です。

たとえば、先日の本会議で、環境省の提案した特定外来生物の
生態系破壊の防止に関する法律案に対して、民主党は、日本生態
学会やNGOなどと連携して対案を策定し提出しました。これは本当に
いい対案です。自民党議員とて反対する内容は一切含んでいません。
単に、環境省の力不足を補ってよりバージョンアップさせた修正提案です。
結局、政府の提出法案はこうした例が多くなっています。つまり、法案の
基本理念や制定・改正の方向性自体は、決して悪くはないが、法案の
内容が不十分・中途半端なものが大変多くなっています。この法案の
場合は、法目的はいいけど、目的達成の手段・措置があまり不十分
なので所期の目的はまったく果たせないという結果になってしまうでしょう。

要するに、最近の政府提案は、マイナスの法案は少ないけれど、
40点くらいの法案が多いのです。こうしたところから、霞ヶ関の
法案制定能力の衰えを感じざるをえないのですが・・・・

たとえば、評価が40点の法案の場合、国民の代弁者を任ずる
民主党としては、法案がないよりは40点プラスだから、あったほうがいい。
しかし、どうせ法律をつくるのであれば、せめて70点や80点にさらに
磨きをかけたらいいのにと思って修正提案をしようとするが、結局、
与党の面子によって、そうした修正提案が蹴られてしまうといった例が
大変に多くなっている。しかし、この法案をめぐるやりとりについての
報道は皆無です。永田町のコップのなかで、自らの面子や意地の
張り合う与党・霞ヶ関と野党、それを面白おかしく報ずるマスコミと
いった国民不在の政治構造を変えたいと強く思います。

しかし、それを良識派・開明派の議員だけが先行した場合、
結果として、老獪・老練な与党の思う壺にはまっているだけの
未熟で浅慮な野党としか、マスコミには映らないといったディレンマの
なかで、私自身としては、まず、永田町のなかでおこっていることを、
正確に多くの方々に知っていただきたいと思います。そして、そのなかで、
われわれがさらに賢慮を重ね、民主主義の本旨を貫きながら、
具体的に与党の老練さを凌駕していくための知恵と技を身に
着けていくための挑戦を地道に積み重ねていきたいと思います。