すずかんMAGAZINE NO.30 深めてほしい「教育論議」
2003.10.24 

11月9日の投票日に向けて選挙戦が盛り上がりつつあります。解散の
翌日の11日、私は、半年前から予定されていた教育のシンポジウムに
一市民の立場で参加してきました。都内の中学校の体育館に、600名を
超える市民が集まりました。校長、教員、ジャーナリスト、医者、学者、
作曲家、作家、保護者、会社員などの肩書きを脇に置いておいて、市民と
して集いました。

学力低下克服で有名な陰山英男先生(尾道市立土堂小学校校長)、
作家の林真理子さん、石川好さんなどのみなさんとも久しぶりにご一緒
しましたが、この日の主役は中学生でした。現役の中学生30名が、
週5日制継続の是非について、600人の面前で堂々と激論を戦わせました。
テレビで繰り広げられる評論家による、紋切り型で、薄っぺらい印象論を
遥かに超えて、堂々たる議論が中学生によって展開されました。

改めて感じたのは、当事者の意見というのは、説得力があるということでした。
週5日制の当事者は生徒・児童そのものですから・・・・・。
この日の議論を振り返りますと、週5日制をめぐり、中学生も、そして、
会場の参加者も、賛否は完全に二分されました。一般の思い込みに反し、
週5日制維持賛成派の中学生は、自立心旺盛で自己コントロールの
できる生徒が多かったようです。現に、彼ら彼女らは、自分の判断で
土曜日をかなり有意義に使っているようで、引き続きそうしたいという
意見が印象的でした。もともと、土曜日は大した授業をやっていなかったので、
もとに元に戻しても学力向上には結びつかないという率直な意見も
発せられました。

一方、週6日制復活派の中学生は、週5日制になってから土曜日は朝寝坊ばかり
していることに良心の呵責を覚えていて、他から律してもらいたいという意見が
有力であったのには少々びっくりしました。また、週5日制になったことで、
月曜日から金曜日の授業が、平均5時間から6時間に増えしんどくなったし、
部活の時間も減ったので、月から金までの負担軽減のために週6日制に
戻してほしいとの意見が出されました。大人が見落としている論点です。

学校の現場や今の生徒の実態も分析せずに、授業時間を増やせば、学力が
向上するといった短絡的な思考をする大人たちよりも、よっぽどしっかりした
議論でした。週5日制か6日制かといった二者択一の議論ではなく、土曜日を
如何に充実させていくかが大切だという方向に議論が展開しました。天沼中学校を
舞台に学校教育コーディネーターの皆さんが地域や学生たちを巻き込んで実施
しているチャレンジ・スタディの取り組みも紹介され、普段の授業ではなかなか
体験できない、生徒たちが本当に感動する授業を土曜には特別に開講し、
校区以外からも参加できるようにすればいいのではないかという大変に
建設的な方向に議論が展開していきました。ステロタイプな議論しかできない
大人は、真剣に見習うべきだと思いました。

民主党も、マニフェストのなかで、「学校週5日制の見直しで、学力向上を」と
記載をしています。正直申し上げて、教育基本問題事務局長を努める私としては、
この表現に、納得していません。少し誤解を招く表現だと思っています。
マニフェストは、最終的には、政調会長と代表の判断で、マス宣伝の専門家の
意見を聴きながら決定しているわけですが、我々、民主党の教育政策担当者の
言いたいことは、決して、従来の「週6日制の復活」ではありません。我々の
本旨は、「児童・生徒にとってより充実した土曜日を目指そう」ということです。
そして、「全国各地の教育現場が主導して自分達の学びのあり方を自分達で
見直し、議論し、実行しよう」ということを言いたかったのです。言い換えれば、
「小学校一年生から高校三年生まで、私立を含めて一律にすべての学校を、
告示一本で週5日制にせよと命令するような画一型・一律型の文部科学省
統制による教育行政を見直していこう。」という趣旨です。週5日制の議論
ひとつとっても、まだ十分な判断力のない小学校一年生についての議論と、
かなり判断力が芽生えてきた中学生とでは全然質の違う問題です。各学校、
各年代、各学年、各地域の実態に基づいた議論をそれぞれの現場が自発的に
行なうことが重要だと我々は主張したかったのです。
しかし、こうした私のような説明は、PRの専門家によると、今の有権者には、
インパクトが弱い、伝わりにくいということなので、今のようなマニフェストの
表現になってしまったそうです。

「学力向上」という表現に一括りにしてしまったのも、あらっぽすぎる表現だと
思っています。今問われるべきは、「学力」とは何かということです。我々が
向上させたいのは、20世紀に必要とされた単なる学力ではなく、不確実性が
増す21世紀を生きる力、生き延びる力、生き抜いていく力です。もちろん、
その生きる力のなかに、読み書き・計算が含まれるのは当然ですし、
コミュニケーションや論理的思考の基礎・基本がおろそかになっている今の
現実は放置できないのは当然です。小学校・中学校で教える読み書き・計算・
英単語は、きちんと習得したほうがいいことはもちろんです。

しかし、何故、学力が低下しつづけているのか? いみじくも、11日の中学生が
指摘したように学校における授業時間増加によって解決できる問題なのか?
といった、実態に忠実な分析が必要です。OECD調査でもいい結果をだして
いるフィンランドと比べてみて、授業時間において日本は大差ありません。
日本の生徒・児童の致命的な問題は、家庭における学習時間の少なさと
学ぶ意欲の低下です。学ぶ意欲を刺激するために、総合的学習などが
設けられているわけですが、まだまだ、いい授業とそうでない授業の差が
かなりありそうです。我々が目指すべきは、激動の時代を生き延びていける
自立した人材を養成するということだと思います。自らを動機づけ、自ら判断し、
自らを律することができる人材をつくるために、思い込みや観念論を廃し、
具体的な学習支援プログラムを巡って、実ある議論が深めていかねばなりません。

是非、これを機に、全国のそれぞれの家庭・学校・地域で教育問題をもっともっと
議論していただきたいと思います。私自身は、土曜日については、地域に開放
された学校も利用して、地域のボランティアが主導して、生徒たちの学習意欲を
かきたてる独自のプログラムを開設し、希望する生徒が集まるといったことが
どんどん起こって欲しいと思っています。そうした動きが不十分な地域では、
ある程度行政が主導し、地域やNPOの協力を得ながらプログラムを実現させて
いくことも必要だと思います。そうしたことのために、民主党は皆さんと一緒に
考え行動していきたいと思います。