平成十六年七月十一日、参議院選挙が実施されました。ご存知のように民主党が自民党よりも獲得議席で上回りました。特に、東京選挙区では、定数四人の選挙区に二人の公認候補を立てて戦いましたが、現職の小川敏夫さん、新人のれんほうさんともに当選を果たすことができました。また、全国比例区の東京ブロック重点候補である円より子さんも見事当選しました。私が民主党東京都連合会選挙対策事務局長として担当した候補者は、すべて勝利を収めることができました。これも、ひとえに民主党そして各候補者を応援してくださった皆様方のおかげです。心より感謝申し上げます。
小泉総理が招いた法治国家の崩壊
小泉総理は、さまざまな能力をお持ちの方だと思います。しかし、法というものに対する余りにも不遜な姿勢。その一事をもって、総理のみならず国会議員としての資質を疑わざるをえないと痛感した先の通常国会でした。
法治国家において、法というものは本当に大切なものです。法は時として人々の生命や財産を奪うことをも正当化します。それだけに法というものの制定には、慎重な審議と十分な手続きが確保されなければなりません。国会というのは、まさにその場所なのです。国会審議は政治ショーではありません。立法提案者によって提出された案文と国会での公式答弁が、審議される法案の当否を判断する唯一の材料です。まして、小泉総理大臣は、政府の最高責任者です。歴代の総理大臣で、これほどまでに国会での答弁の重みを軽んじた方はいらっしゃらなかったと思います。
いままでにも、数多くの総理や大臣が、国会で苦しい答弁や詭弁に近い答弁をしてきました。しかし、いずれも自らの信ずる政策を実現するために、なんとか政策の妥当性を説明しようと冷や汗をかきながら真面目に努力されました。
そうした与党の懸命な姿勢をみて、野党も立場は違えども、これならば政策の濫用は心配ないだろうとの心証が形成され、附帯決議や答弁などで担保して、法律の賛否はともかくも採決することに関しては了承し、法律というものが制定されてきました。
しかし、小泉総理の国会審議への姿勢は、そうした努力はまったくありません。「どうせ野党は反対なんでしょう」と最初から最後まで開き直り答弁に終始します。いまや民主党の与党法案への賛成率は全体で七・八割となっているにもかかわらずです。国会での答弁が、議事録に留められて、この国が存続する限り未来永劫残り、それが法律の解釈の重要な根拠となるのといった自覚がまったく感じられません。賛否立場は違えども、議論してよかったな、いい議論だったなという感じが、小泉総理との議論では全く残らないのです。
年金問題を通じて露呈する不誠実
その最たるものが年金法案の審議です。「人生いろいろ、会社もいろいろ」発言の不誠実さには、怒りを通り越して、情けない限りです。
政府は当初、給付水準は現役世代の収入の五〇%は確保(現行五十九%)すると大声で宣伝してまわりましたが、それはモデル世帯と呼ばれる、夫婦(妻は専業主婦)に子供二人世帯のことのみを指しています。一方で、いまどき、この標準世帯に入るほうが少ないわけで、その他の例えば夫婦共働き家庭は収入の三十九%、独身男性は三十六%の水準のみが給付されるという制度です。最初からこの数字はわかっていたわけで、それならそうと、はじめからまるですべてが五〇%以上のような錯覚を起こさせる言い方をせず、事実を公表すべきです。
もうひとつ、不誠実の極みは合計特殊出生率の数字を、恐らく意図的に隠ぺいしていたことです。厚生労働省が今回の改正案で前提としている出生率は一.三二でありましたが、六月の年金法改正直後に厚生労働省が発表した二〇〇三年の出生率の実数は一.二九。つまり、年金法の試算前提とは異なる数字が出てきたのです。こちらも給付水準同様、なぜ隠すのか、まさに政府・与党のメンツのためにのみ、重要な情報を隠しているとしか言えません。法案審議の根底となる数字の隠蔽です。
ところが、国会でのまともな審議を行う姿勢も示さずに、最後は強行採決してしまう。総理自らが、この国の順法精神を破壊しています。法というものを、ここまで軽んずる政治家が総理をやっているということを皆様にも知っておいていただきたいと思います。
法が軽くなるとき、何が起こるか?過去の歴史をみれば明らかです。それは、暴力が台頭してくるのです。昨今、学校現場で、家庭で、世間の巷で、暴力が多発しているのも、世の中全体の順法精神が崩壊しかかっているからですが、こうした政治の姿勢と無関係ではないのです。
総辞職に値するイラク大量破壊兵器不存在問題
もう一つ、許せないのはイラク問題です。私は、イラクへの先制攻撃には断固反対でしたが、この国のエネルギーの約半分が原油に依存し、その七割が中東からの原油に頼っているわが国としては、イラクの復興支援に関し、積極的な貢献することが望ましいと思っています。一方で、国内外問わず、今回の米英の武力行使に関しては異論が根強いことも意識しなくてはいけません。綿密で精緻な判断と丁寧な関係者との議論の積み重ね・説明が是非とも必要となります。その双方を軽視したのが、まさに小泉総理のイラク派兵でありました。
思い起こしてみてください、今から十年以上前のことを。おさらいになりますが、イラクがクウェートに侵攻し、アメリカをはじめとする多国籍軍との間に、湾岸戦争が勃発しました。当時は(今もですが)、憲法の規定上、わが国が自衛隊を海外に派兵することなどもってのほかで、多国籍軍に参加することなどできませんでした。一方で、百三十億ドルもの戦費負担をしたにもかかわらず、カネだけ出してリスクは負わない、そういう不名誉なレッテルを貼られました。クウェートが湾岸戦争終了後、アメリカが新聞『New York Times』に各国の貢献に対し感謝広告を出しましたが、その中に日本の名前はありませんでした。
その経験から、政府はPKO法成立にコマを進めます。国内での大激論の末、一度は廃案となりながら、一九九二年にPKO法は成立しました。停戦合意の成立、その合意がなくなれば即座に撤退する等の『PKO五原則』を堅持できる場合にのみ、自衛隊の海外派遣が可能になりました。そして、カンボジアやモザンビーク、東ティモール等でのPKO活動で実績を重ね、自衛隊の国際貢献活動に、多くの国民も理解を示すようになってきました。長い道のりを経て、ここまでたどり着いたのです。私もこうした国際貢献活動には基本的に賛成です。
そこで起こったのが、あの、九・一一のアメリカ同時多発テロ事件です。以後、状況は一変し、小泉総理はなし崩し的にブッシュ政権のいいなりで、具体的説明も不十分極まりない中、自衛隊派兵に突き進むことになります。
まずは、テロリストの温床となっていたタリバーン政権掃討のため、アフガニスタン入りをした米軍を後方支援するため、いわゆるテロ対策特措法が成立しました。そして、大量破壊兵器があるからとの理由でイラクに攻め込んだ米英をいち早く支援し、そしてイラク特措法も成立、自衛隊はイラクの地に出向くことになりました。
私も、テロ特措法については、一定の理解を示さないわけではありません(もっといい方法はいくらでもあるとは思いますが・・)。しかし、イラク特措法については、米国のイラク侵攻に全くの正当性がないことはあきらかであります。イラク特措法に対する小泉総理のやり方はむちゃくちゃです。
いずれにせよ、過去数十年の積み上げを小泉政権は吹き飛ばしてしまいました。小泉さんの頭の中に法的な論理の積み上げなどあるはずもなく、「どこが危険か、私が知るはずもない」と言ってみたり、大量破壊兵器の存在の根拠について明確な答えもできず、その一方で自衛隊の海外派兵をこともなげに認めてしまいました。
そして、ここにきて米国のブッシュ大統領までが、十月六日、大量破壊兵器の存在に関する情報が間違っていたことを認め謝罪しました。ブレア首相も既に労働党大会や英国議会で同様の謝罪をしています。本来であれば、この時点で、ブッシュ政権も、それに追従したブレア政権も小泉政権も即刻退陣に値するくらいの歴史的な失政です。しかし、小泉総理からは、反省の弁のカケラすらありません。
民主党は、臨時国会で、この問題を徹底的に追及していますが、なぜ、マスコミはこの問題を大々的に追及しないのでしょうか?日本社会全体が、あたりまえの良識を失っていることに大いなる危惧を禁じざるをえません。アメリカでは、「華氏911」のような作品が製作され、好評を博しています。アメリカのメディアの健全さをみる思いはします。
日本と米国という二大大国において、法治国家の基本が、今、大きく崩れかかっています。これは人類史上未曾有の危機であります。
繰り返しになりますが、私も、国際貢献は大事だと思っていますし、イラク復興支援も大切だと思っています。現地の任務についておられる自衛隊員の皆さんには最大限の敬意を表し、心から感謝を申し上げたいと思います。
しかし、イラクへの自衛隊派兵に踏み切るにあたり、派遣にいたる判断の過程が余りにもずさんで、さらに、国民の皆さんに対する説明がずさんで、こんなことがまかり通っていたら、本当に、この国の法治国家はおかしくなってしまうということを強調したいのです。
テレビ政治を見事に活用しきった日米の二人の政治家、すなわち、ブッシュ大統領と小泉総理のコンビが、今、人類が営々と築き上げてきた法治国家という平和のための装置を、根底から葬り去ろうとしていることを、私は、声を大にして警鐘を発したいのです。もう一度、申し上げます。「法による支配が去った後、そこに残るものは、本能剥き出しの闘争だけです。」
岡田克也代表就任・再選
一方のわが民主党ですが、五月の連休後の菅直人代表辞任によって、民主党が窮地に追いやられた後に、岡田克也という何事においても原理原則を大切する政治家が代表に就任したことは、まさに、今、日本が法治国家喪失の危機に直面するなかで、天の配財だなと思いました。民主党のなかでも、法の支配・民主主義の原則にこだわるのが岡田克也代表です。
ちなみに、岡田代表と私はともに通産省出身で、私が入省した当時、岡田代表は隣の課の課長補佐でした。そんなご縁もあり、岡田さんの性格を熟知している一人でありますが、とってもパフォーマンスが得意な方ではありませんし、また、表立った気配りが得意なタイプでもありません。しかし、この、まっすぐに、ひたむきな岡田克也代表の政治姿勢を、先の参議院選挙では、有権者の皆さんに評価していただいて本当によかったと思っています。
9月の代表選挙では、無投票で岡田代表が再選されました。党一丸となって、政策面での更なるすりあわせ、各選挙区における地元活動の強化などに、地道に邁進していくことが政権への近道だと信じ励んで参りたいと思っております。私は、新体制で、次の内閣の文部科学総括副大臣を仰せつかることとなりました。どうぞ、よろしくご支援・ご指導のほど、お願い申し上げます。
ブッシュ再選
十一月の米国大統領選挙を、私も大いに注目いたしました。結果は、ご存知のとおりです。世界一の超大国の大統領にブッシュ氏が引き続き四年間留まることになってしまいました。「法による支配」「理性による政治」が国際政治の現場から、どんどん崩壊していくことがいよいよ心配です。力による封じ込めを振りかざせばかざすほど、窮鼠は猫を噛みます。世界のいたるところでテロによる緊張が激化することでしょう。テロリストに対して毅然立ち向かうことは当然ですが、テロを沈静化するため必要なことは、テロリストたちをイスラム諸国やパレスチナなどの一般の人々のなかで、孤立化させることです。現実は、逆になっています。
あのような国際法無視のイラク侵攻を行い、イラクの一般市民を傷つけた、ブッシュ政権が、イスラム諸国等の一般民衆や政権からの共感を得ることは到底不可能です。もはや、テロ撲滅の先頭に米国が立つことはできません。
こうなった今や、我々日本は、国連、欧州、アジアなどの人々と一緒になって、テロ撲滅の方法を考え、実践していかなければなりません。もっとも有効なのは、殺戮を憎み平和を愛する大多数のイスラムの人々やイスラム諸国の政権と世界各国が一枚岩になることです。同時に、それぞれの国における警備体制の強化とイスラム諸国も巻き込んだ国際刑事警察共助活動の充実が不可欠です。今は、イスラム各国からの協力は全く得られていないのです。インド・パキスタン緊張では、パキスタン政府自身が対インド・テロリストの取締りに動いたことが緊張緩和に大いにプラスになりました。
すべての宗教・民族・国籍の人々が、何の罪もないすべての市民を非人道的なテロから守るんだという大目標のもとに、テロ警戒活動、テロ阻止行動、テロ撲滅運動を共同で展開していくことが大事なのです。
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