鈴木寛(すずき ひろし かん)

元文部科学副大臣・参議院議員 鈴木寛に私学振興について伺う 私学時報 日本私立中学高等学校連合会発行



 

3年3ヶ月を振り返って 初めに行った保護者の教育費負担軽減

吉田:今日は、この3年3カ月の間、政権与党の中心にいて、文部科学副大臣として、また与党の政策責任者との立場で、特に教育政策や教育行政の遂行に携わってこられた参議院議員の鈴木寛先生をお招きして、「私学振興を語る」というテーマで、お話を伺いたいと思います。振り返ってみますと、政権交代の際、われわれが一番不安だったのは、私学助成の意義が民主党政権の中でどこまでご理解いただけるかでした。ただ、幸いにして、東京選出の国会議員の鈴木寛先生とは近しくお付き合いをさせていただいていましたし、先生自身が私立中高校の教壇に立った経験者ということもあり、私学振興を常に思っていただいています。

今回、私も文部科学省の中央教育審議会の委員に就任いたしましたが、先生からは「教育を受ける子どもたちに選挙権がないため、彼らの権利の保障のためには社会的な仕組みが必要で、その一つが中教審だ」という、非常に分かりやすいご説明をいただいています。先生には、先ずこの3年3カ月を振り返り感想などをお話しいただきたいと思います。

鈴木:参議院議員として教育に絞って、この12年間やってまいりました。この3年3カ月では、初めに行おうと思ったことは保護者の教育費負担軽減です。そう思ったのは、経済的な混迷の中で、保護者の皆さんは経済的に大変な思いをしておられる。しかし、日本の保護者は自分のことは削ってでも子どもの学費だけは、という方が私立中高校の保護者に大勢いらっしゃるので、そうした方々を何としてでも支えたいという思いからです。私立学校の存続の基盤として、必要不可欠な私学助成金をきちんと堅持しつつ、私立高校で学ぶ生徒の皆さんに対して所得に応じて12万円から24万円の就学支援金を給付を開始させていただいております。

それから、政権交代前、中学生に対して児童手当は給付されていませんでしたが、政権交代後、中学生に新児童手当の給付を開始しました。 また、政権を担い、私が文部科学副大臣として担当いたしておりました時に、大学生については希望者全員奨学金貸与ということが実現しました。12年前、奨学金貸与者は約70万人でしたが、今は140万人までに倍増することができました。

それから、もう一つ。私は、結果の平等ではなく、機会の平等、スタートラインの平等はきちんと確保しなければいけないと考えています。その不平等が長年放置されてきたことが、日本の活力の低下の原因だと思っていました。実は1986年時点では大学の授業料全額免除は12%の学生に適用されていたのですが、2009年には5%にまで低下しました。こうしたことが、格差の固定につながっているのだと思い、結果、政権を3年お預かりさせていただき、10%まで戻しまして、今、私立大学を含めて約1割の学生が、授業料を全額免除されるだけの枠を確保しました。また、いわゆる出世払い奨学金という、卒業した学生の所得が一定水準に達するまでは返済を猶予する無利子奨学金制度もつくらせていただきました。今までに全くない制度です。

この3年間で保護者の学費負担軽減策は大きな一歩を踏み出すことができたと思っています。

それから、教育については「コンクリートから人へ」、これは私の12年前の選挙公約なのですが、それが政権のスローガンになりました。文部科学省予算が、政権交代2年目の予算編成で国土交通省予算を追い抜きました。省庁の予算配分比率が変わるというのは、戦後初めての画期的なことなのです。しかし反省点としては、世の中全体にその意義を伝えることが十分にできなかったことが大変残念だと思っています。

 

子どもたちの教育に必要なこと 先生方を増やして心と心の教育を

近藤:昨今、私が気になっているのは、いじめ問題、体罰の問題、それぞれ個別の問題はあるのですが、それをあまりにもセンセーショナルに取り上げて、国会まで行きました。しかし現象にとらわれ過ぎているのはないかと感じています。子どもたちのためにどういう教育が必要なのかということを、冷静に考えていかなければいけないと思っているのですが、先生のご意見をお聞かせ下さい。

鈴木:教育というのは10年、20年、50年、100年と、先輩たちが積み上げたものを引き継いで、それをさらに良いものにしていく、長い、長い営みです。それを一つのテレビ番組や一つのコメントで全て否定するようなことは非常に残念なことです。ですから、まずは生徒と毎日向かい合っている現場の先生方、それを指導している校長先生、理事長先生等が、お考えになっていることを存分にやっていただく、その環境整備が私たち政治の仕事であると痛感しています。結局、政治がやるべきことは非常にシンプルで、日本だけ、この20年間、教育投資を全く増やしてきませんでした。保護者だけが投資を増やして来ましたが、税金を原資とした応援はほとんど増やしてこなかった。日本を除く全ての国が、新興国はもちろん、先進国でも最も重点を置いて投資を増やして来た分野は教育です。

しかし、日本は高齢化や地域の振興のための公共事業を増やして来た。理由は分からないではありませんが、やはり優先順位を間違えた。

例えば、アメリカでは大学生1人を育てるのに、1年間に社会全体で2万9,000ドル使っています。しかし、日本の大学生は、文科系に至っては7,000ドルですから、4分の1しか社会が投資をしていないわけです。多様な、優秀な教員をどれだけ分厚くそろえるか、集めるかという体制整備が教育投資のほとんどです。国際競争、人材競争がいわれて、それだけの投資をされてきた人材と日本で育ってきた人材は、いろんな意味で競争をし、協力をするときに、やはり相当差が出てきてしまうと思います。

私は民主党が野党の時に日本国教育基本法という法案をまとめました。そこで日本を愛する心を涵養することを明記したわけですが、大人たちが子どもたちを愛すればおのずと、子どもたちはこの国を愛し、大人たちからしてもらったことを自分たちの次の世代にしていこうと、思ってくれるわけです。

本当に愛情を持った先生方がもっと思う存分できるように、そうした先生方がもっと増えて、子どもたちとの関わりを増やせるように。いじめの問題でも先生方の層が2倍になれば、心と心の向き合う時間も増えるし、あらゆる問題で好循環が生まれていくと思っています。

 

高等教育の課題・改革 学習指導要領、大学入試が課題

清水:これまでは、日本の学校教育の中で、高等学校の問題をかなり真剣に議論してきた経緯があまりなく、私たちにとっても本当に大変大きな問題ですが、先生から見て、高校教育の問題点、どういう方向に改革を進めていくべきかを、お教えください。

鈴木:日本の教育の直近の状況を見ますと、例えばPISA(経済協力開発機構による国際的な生徒の学習到達度調査)では、トップ層の割合は世界一に戻ったのですが、ボトム層の割合が韓国より多い3割です。そこを何とか韓国並みの2割にすれば、日本は圧倒的にもう一回、世界1位に戻るわけです。問題はかなり絞られてきていると思います。

義務教育は診断が終わって、処方も付いて、そして第一歩が踏み切ったという感じですが、高校は診断と処方箋をちゃんと書かなきゃいけないという状況です。高校3年間を何とかすれば、日本の子どもたちは一挙によくなるのだろうと思っています。少なくとも言えることは、これだけ多様な学びが必要とされる、特に高校から大学にかけてというのは、まさに価値観や人生、生き方が多様化する中で、そのためのスタートを切る段階に立って、今の学習指導要領は画一的で非常に硬直的で現場の創意工夫をそいでいることは明らかに問題だろうと思います。

2つ目は受験ですね。大学入試ですね。私立の高校をはじめ、学校現場では子どもたちの将来を見据えて様々な工夫や努力がなされていますが、なかなか広まっていかないのは、受験が原因だと思っています。競争や受験を否定するものではありませんが、評価する方法は大いに変えていかなきゃいけないと思っています。人間の能力には、個の能力もありますが、人と何かをやっていく能力もあるし、それから、その中で、もちろん定量化できない、むしろそういうもののほうが人間としては、もとめられることが多いわけですね。

実社会はどういう人材を求めているかというと、別にマークシートができる人材を求めているわけでは決してない。しかし、その情報が大学の入学者選考のデザインに生かされていないということが問題で、高校と大学と社会の三者が本当に真剣に議論し合って、この15歳からの大事な10年弱をどうするのかという議論を大々的にやっていきたいと思いますし、今、芸術や文化など、それぞれの才能を開花させることがどんどん始まっています。私のときに全国の高校生による「科学の甲子園」を始めまして、これが今年2年目になりますが、科学だけじゃなくて、スポーツ、グローバルなコミュニケーション、ボランティアなど、いろいろなことが伸び伸びできる3年間にしてあげたい。そのためのボトルネックを解決していきたい。

 

私立の中高一貫教育 人としての基本をつくる大切な時期

平方:日本の中で高等学校の数は約5,000校、そのうち私立高校が約1,300校です。その高校に付属してある中学校が700校、私立高校の半分以上が中学校を持っています。最近、都市部にとどまらず、一貫校に対しての興味・関心が非常に高まっています。私立の一貫校がこれから発展していくための役割、問題点、私立には公立にはない男女別学があるんですが、私立の一貫教育に関してお聞かせください。

鈴木:私自身、私立の中高一貫校出身で本当によかったと思います。10歳までは家庭が一番大事、10歳から18歳までは学校が一番大事、18歳以降は本人だと思います。そういう意味で人間の成長に最も意味のある時間が中学・高校の6年間だと思います。その6年間が一つの哲学で統一され、そうした学び舎で人生を送るのは、本当に人間の物の見方、考え方、あるいは問題への立ち向かい方、友人との付き合い方、本当にあらゆる面での、人としての基本をつくってくれる時期だと思います。

私立中高校は、建学の精神に基づいて、哲学だとか、精神だとか、そういうことを屈託なく毎日のように、なぜこれはそうなのかというと、われわれはこういう価値を大事にしているからということの6年間を過ごせるとことは非常に大事なことだと思います。そういう意味で私立中高校の意義はますます高まると思います。

それから、私は今、200年ぶりぐらいに大きく世界史が変わっている時期だと思っていまして、21世紀あるいは22世紀の教育を先取りして、いろいろな試行錯誤、挑戦をしていくということが日本の教育、世界の教育にとって大事だと思います。22世紀の教育に、不易流行、大事な、変わってはいけないものを建学の精神として持ちながら、新しいことに挑戦できる、そうした22世紀の教育を先取りした挑戦ができるポテンシャルも私立の中高校にあると思っています。

公立が私学のまねをして、経済的なところだけ違っているというのは多様な学びのチャンスを失わせるということで、日本全体にとって非常に残念だと思います。私が男子校で得た友情、あるいは男子校ならではの教育手法、教育方針が非常にいろんな意味でよかったと思っています。女子校も全く同じなのだろう思います。そこは大事な、多様性の一つとして守っていかなければいけないと思っています。

 

将来、我が国があるべき姿 日本は世界史の先頭に立てる

山中:現在、わが国の将来というよりも近未来でさえ予測、展望が不可能な時代になってきています。

今の子どもたちが社会の中核として活躍する場というのは21世紀の中盤になろうと思うのですが、

わが国はどうあるべきか、どうあってほしいかという将来像をお聞かせください。

鈴木:近代というのは一言で何かといえば、まさに富国強兵であり、物質文明であり、そして人工物をいかに大量に生産し、大量に消費し、そのことを最大化するために社会の制度ができ、あるいは教育も大量生産・大量消費のための人材養成に主眼が置かれてきたと思います。

しかし、その大量生産・大量消費が大量廃棄につながり、環境問題を引き起こした。2011年3月11日の東日本大震災はわれわれに、エネルギーをたくさん使う文明は持続可能ではないということを教えてくれました。

多様な電力政策、エネルギー政策をやっていくということが現実的だとしても、21世紀の半ばにおいては、やはりそういうことを目指していかなきゃいけない。そういった時代に今の子は主役になるわけですから、物質文明ではなくて、人と人との心が通い合う時代をつくっていく。いずれにしても形なきものを大事にする、見えない価値というものを創造したり、あるいはそれを大事に思える、あるいは応援できる、そういう人材を私は日本からつくっていきたい。

卒近代ということではむしろ日本が世界史の先頭に立てると私は思っていますし、立ちたいと思っています。

ですから、日本から、ヨーロッパなどの人々とも協力しながら新しい人類史をつくっていきたい、そういう日本の歴史の1ページをつくっていきたいと思っているのです。

私はそういう人材を私立学校の皆さんがぜひ輩出していただきたいと思いますし、心や、あるいは精神や哲学ということの大事さを6年間、先生や先輩からしっかり引き継いでくれた若者がそれを果たしてくれると強く期待しているところであります。

 

中学生・高校生に望むこと Be Yourself!

新田:ここ2~3年で特に、不況の中で大学生も高校生も目先の結果だけを求めていく。

やはり若いときにしかやれないことをやっていかないと世界で競えるものができない

という不安に駆られているようです。私の学校の卒業式で今年、「Be yourself」、自分らしく生きよう、若いときにしかできないことをやろうということと、

若い時の苦労はお金では買えませんよということを話しましたら、保護者の皆さんから拍手が湧きました。

先生の立場として、中学生・高校生に望むこと、さっきおっしゃいましたけれども、大きく何か付け加えることがありましたらお願いします。

鈴木:私も「若い時の苦労は買ってでもしろ」が口癖で今のお話、感動しました。

私は慶應義塾大学にいましたときにマサチューセッツ工科大学(MIT)と共同研究をしました。そのときのテーマがクリエイティブで、創造的で、コラボレーティブ、協働的な、アートワークです。これからの21世紀、22世紀は、クリエイティブでコラボレーティブなアートワーカーを育てていくということが教育のモデルではないかということで、具体的なプログラム開発などをしていたわけですが、そのことが何かというと、「Be yourself」なんです。要するに唯一無二の存在同士が、この世にないものを、一緒に協働して、この世に一つしかないものを創造することです。

そういう意味では、そうした経験を中高校時代からした人は、どんどんその道を進んでいけるわけですが、中学・高校時代に先生やいろいろな方々のご指導の中で、いろいろな試行錯誤を安心して取り組めるという環境で子どもたちを学ばせてあげることが大事だと思いますし、まさに私立中高というのは、それをしていただいているというふうに思っておりますので、ぜひそれを続けていただければと思います。

 

2020年東京オリンピック等 人間の努力、挑戦、協力等伝えたい

近藤:鈴木先生は文部科学省の副大臣として、また地元東京の議員として2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致活動に携わってこられたと思うのですが、われわれ教育関係者としては、オリンピックの開催については、子どもたちの心に影響を与えるという意味で非常に期待をしています。先生はどう思っていらっしゃいますか。

鈴木:私、超党派の2020東京オリンピック・パラリンピック招致の議員連盟事務局長をしています。このたび署名集めをさせていただきましたところ、最も貢献を頂いたのが私立中高校の皆さま方でして、心から御礼申し上げたいと思います。

では、何のためにオリンピックするか、ということなのですが、1964年の東京オリンピックでは、いろいろなハードが残りました。今回は日本中に老若男女のスポーツ文化コミュニティーをつくるきっかけにしたいのです。スポーツは言語ですから、世界の言葉ですから、そういったコミュニティーができたらいいと。そこで、一人一人が大事にされる素晴らしいコミュニケーション、コラボレーションができる場ができたねと、そういうきっかけにしていきたい。

それから、2つ目は、自らの限界に挑戦するということがスポーツのコアバリューでして、人間が努力し挑戦するモチベーションを内発的に湧き起こしていきたいと考えています。また、スポーツはチームワークです。マラソン選手だってサポートしているチームがあるわけで、スポーツに個人競技はありません。

人間はコミュニケーションをする動物であり、まさに協力する動物であるわけです。そうしたことを伝えていきたい。

これは私が出ました中高校の創始者である嘉納治五郎先生の校是であったわけですけれども、私は自他共栄ということを6年間、毎日のように聞かされて、そしてまた嘉納先生の書を毎日のように見ながら6年育ったわけですね。まさに人間というのは自他共栄するというところに人の人たるゆえんがあるということを思っています。

 

日本の教育への思い 少しでも良くしたい

吉田:先生、お忙しい中、本当にありがとうございました。先生は、われわれと同じものを共通して持っておられる。先生のような方に今後も活躍していただきたいと思います。特に先生は今年7月に参議院議員の任期を終えられるわけですが、先生にはぜひ引き続き残って日本の教育を支えていただきたいと思います。それに対する決意を一言だけお願いします。

鈴木:これまで12年間、教育、教育、教育ということで議員活動を続けてまいりました。できたこともありますが、まだまだ日本の社会の中で、あるいは日本の政治の中で、教育の重要性というものが十分深いレベルまで理解され、浸透し、国民の支持が集まり、税金が投入されるというところには、残念ながら至っていない中で、引き続きこの世界で少しでも日本の教育を良くするために頑張っていきたいと思っておりますので、これからも教育、教育、教育で頑張りますので、よろしくご支援、ご指導のほどお願い申し上げます。(終)

▲pagetop

  • ソーシャルプロデューサーズスクール
  • 社会創発塾
  • すずかんFacebook