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 動き始めたコミュニティ・スクール

 

 五月三十日、岡田前代表、仙谷前政調会長をはじめ、民主党の国会議員十三名と京都市立御所南小学校を訪問しました。私が慶応大学で教鞭をとっていましたときに金子郁容教授らと共に構想し、出版も行ったコミュニティ・スクール構想ですが(平成十六年六月に参議院文教科学委員会幹事として法案制定に関与しました)、その全国屈指のモデル校の一つでもある同校を視察先に選ばせていただきました。

 圧巻だったのは、夜十九時から開催された御所南コミュニティの今年度はじめての総会です。御所南小学校を支える七十五名の運営協議会委員・企画推進委員に教員が混ざって所狭しと十二のテーブルに分かれて座り、今年度の運営について喧々諤々の議論が行われていました。ものすごい熱気に圧倒されると同時に、我々が構想した以上のコミュニティ・スクールが創られている現実を目の当たりにして少し胸が熱くなりました。一九九九年に我々が提唱したときには、教育界・学界・文部省で四面楚歌だったこの構想が実際に具現化され、御所南小学校での成功が、京都市内はもちろん(今年から京都市では十一校がコミュニティ・スクールに移行)、全国に広がっていること(今年度中に十六校が指定予定で計四〇校になる予定。来年度以降は一五〇校の指定が検討中)も大変嬉しい限りですが、各現場で夜遅くまで、ただ子供の幸せのみを願うひたむきなご努力を、こんなにも大勢の方々がされていらっしゃることに、感動いたしました。

 コミュニティ・スクール構想には、当初、様々な心配が寄せられました。地域や保護者などが学校の運営に口を出すようになると現場は混乱するとか、一部の地域有力者に牛耳られるかもしれないなど、様々な批判が寄せられていました。しかし、今回の視察で現場から本当に嬉しい言葉を伺いました。「今まで学校に求めるばかりだった保護者が学校・地域とともに子供にとっての良い学び場づくりに加わってくれるようになった」「保護者側も教育のことを勉強し、より深く考えるようになり、教員の見えない苦労を理解するようになり信頼が深まった」「仮に、校長や教員が八〇点だとしたら、地域と保護者がその残りを補って、盛り立ててくれるようになった」「学校に愛着を持つようになった親の背中を見て、子供は学校を好きになり、学校を好きになった子供はおのずと勉強が好きになって成績が上がった」「地域や保護者の方々と日々接するようになり、より教員が自己研鑽に励むようになった」「地域の子供のために献身的に打ち込む地域の方々を見て、若い教員の意識が自然と高まった」「学校運営に地域の自治会幹部の参画をお願いするようになって、自治会幹部の選ばれ方が変わってきて結果として街づくりにも大いにプラスになった」「新築マンションで地域と縁がなかった方々が、子供をかすがいとして地域とのコミュニケーションを深めるきっかけになった」など、生の声を本当に嬉しく聞かせていただきました。

 教育はひとえにそこに関わる人材の質と量に依存するというのが私の自説ですが、学校運営にもまったく同じことが当てはまるなあと痛感した次第です。京都市立御所南小学校であれば門川教育長、村上校長の情熱・識見は並大抵ではありません。ともに教育一筋、何年にもわたり人には言えない幾多の困難を乗り越えてこられたことがお話の端々からにじみ出ていらっしゃいます。

今年に入り、私は年初から杉並区立和田中学校、足立区立五反野小学校、小金井市立東中学校、長岡市立川崎小学校、小千谷市立小千谷小学校、三鷹市立第四小学校と国会審議の合間を縫って現場を歩かせていただいていますが、学び場再生の鍵は「ボランティア精神とそれを引き出すリーダーシップそして長年にわたる不屈の努力の積み重ね」だということを確信しております。

 今までお邪魔した学校コミュニティでは、いずこも年間数百人規模のボランティアが授業・事業の支援に参画しています。教員のボランティアも半端ではありません。そして、教育長、校長、理事長などに素晴らしいリーダーがいらっしゃいます。

 私は、こうしたコミュニティ・スクールの実践を目の当たりにして、日本人の底力に改めて感動しています。日本も捨てたものではありません。この運動を全国津々浦々に広げていくことに、より一層邁進していきたいと改めて心に誓った次第です。

 いまだに、成功している地域・学校は良きリーダーに良き地域、良き保護者に恵まれているが、なかなかそんなに好条件が備わった地域はないとおっしゃる方がいらっしゃいます。確かにそうかも知れません。しかし、このたび私の迷いはふっきれました。

 ある方から、「子供の能力にせいぜい五倍の開きはないが、そのやる気は百倍以上の開きがある」とのお話を伺いました。このことは大人にも当てはまるのではないでしょうか?
 結局は各現場の関係者のやる気次第です。やる気を持って諦めずにやり続ける。我々関係者が、そうした努力を最大限に引き出す仕組みづくり・取り組みを、その努力を惜しまないことが現場の力を最大限に引き出す近道だと思います。ちなみに京都市は政令指定都市ということもあり、今の公立学校経営では、分割している人事(県)、指導内容(文部省)、設置(市)の権限を、京都市がほぼ一元的に掌握しています。このことは実は、重要な公教育改革のポイントを示唆していると思っています。

 また、教育をめぐる能力とは何でしょうか?私は、子供の学ぶ意欲に火をつけ学びに向かわせられるかどうかだと思います。だとすれば、子供の幸せを願って、生きる力向上のために、ひたむきに努力し続ける大人の後姿を見せる以上に教育効果の高い指導法はありません。

繰り返しますが、京都市の教育実践には感服するばかりです。就学前教育のモデルとして、こどもみらい館、全国に例を見ない臨床心理を駆使した不登校児対象のこども相談センターパトナも、旧明倫小学校を見事に生まれ変わらせた京都芸術センター、京都市立御池中学校のPFI方式で建てられた老人施設・保育施設等を併設する複合式校舎など、今の教育・文化政策の重要課題に対してほとんど答えを出し、具体的なプロジェクトにして我々にモデルを示してくれています。「百の論文よりひとつの実践の大切さ」を改めて痛感した一日でした。



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