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 憲法調査会最終報告取りまとめ

 私は、参議院憲法調査会幹事として、五年間継続した憲法調査会の報告書の取りまとめに奔走しました。とにかく案文の調整が大変でした。自民と民主の理事の間で、内々は、かなり多くのことについて合意しつつあったのですが、最後に公明党が態度を変え、三党で合意しかかっていた項目を、突然覆し、結局、報告書としては、ほとんどが意見集約のない論点整理にとどまりました。マスコミからは、五年議論して、これだけのことしか報告書に盛り込めないのか!といった叱正を受けましたが、本来であれば、もっと様々な議論を世間に提示できたはずなのに、我々としては、内心忸怩たる思いでいっぱいでした。

私個人としては、憲法といえば、すぐ九条のことに議論が集中しがちですが、実は、それ以外にも、いくつも重要な論点がある。とりわけ、現在は、モダンからポストモダンに時代が移行しつつあります。そうしたなかでポストモダンにおける憲法を考え、創造するきっかけをこの日本でなんとか作りたい、そして、ポストモダン憲法を世界に発信したいという思いで調査会の運営および討議に望みました。

私が憲法調査会で具体的に発言したことを、要点のみご紹介します。

ポストモダンの憲法論議を

今現在、世界は産業社会から情報社会へ移り変わろうとしています。これからは、物よりも情報が、生産よりもコミュニケーションが、経済よりも文化が、相対的にその重要性を増すことになります。そして、それにともなう新たな統治システムの構築や、新たな権利設定が要請されます。憲法改正や新憲法制定において、私がとくに重視しているのが、この情報社会において不可欠と考えられる、コミュニケーション権や学習権の保障の充実と熟議の民主主義の実現です。

 ラストモダンに入り、もはや国家には、個人を幸福にする余力はありません。大きな政府は事実上無理になっています。しかし、その一方で小さな政府でも、二極化により社会混乱に対応できません。大きな政府、小さな政府論争のなかに、これからの社会経営の応えはありません。そうしたなかで、これからは、むしろ自助・自律および互助・共助の実現が強く求められます。一方で、情報社会化が急速に進展し、情報が氾濫する世界で正しい判断をするために、ひとりひとりや各グループが必要な情報を検索・取捨選択し、的確に意思決定をし、有機的に協働して、直面する問題を解決していかなければなりません。

具体的には、自助・自律のために、情報源にアクセスできる権利、情報収集する権利、判断力とコミュニケーション力を習得する権利、自律的意思を表明する権利。また互助・共助のために、コミュニケーション・コラボレーションによって自身を取り囲む諸問題が解決できるよう友人や同志らと交信する権利、同志と連携する権利、同志と結社をつくる権利、チームワークやコラボレーション力を習得する権利といったものがより重要となってきます。企業・団体・病院・大学・メディア等の中間団体が国家と並ぶ大きな存在となっている今、そうした中間団体についても憲法によって規定していかなければなりません。

  新憲法案制定における具体的論点

 憲法改正案に即して説明しますと、コミュニケーション権として、コミュニケーションの主体であることが保障され、他者との連帯・交信・協同が支援される権利、個々のアイデンティティと多様なライフスタイルを尊重される権利が保障される必要が高まっています。
 また学習権として、自らのアイデンティティを獲得・習得する権利、多文化社会を生きるために多様な言語・文化を学習する権利、情報を理解し判断する力(真善美)を獲得・習得する権利、情報編集力・コミュニケーション力を獲得・習得する権利が保障される必要が高まっています。もちろんコミュニケーション権もそうですが、特にこの学習権は、市民から智民へ、という言葉にもうかがえるように、独立した個人が、その意思を形成していかなければならない社会において必要不可欠のものとなるでしょう。
国際社会においても、これからの日本のスタンス、その方向性を決定する時期にきています。アジア外交は無論のこと、米・欧州との付き合いかた、先進国としての日本、どれも重要ですが、国際問題について考えるときまず踏まえなければいけないのは、日本という国家のアイデンティティでしょう。
日本のアイデンティティとは何でしょうか。私は、八百万の神と仲取持ちだと考えます。これはまさに日本に古くから多神教が根付いている。急激に国際化・情報化し、多様なライフスタイルが出現するこれからの時代、価値多元主義がより重要となってきます。他の価値観を認識し容認して共助・互助の助けとするのは容易ではありません。しかし、日本は伝統的に、多様な価値を認め、それぞれを繋げてきました。そうした、日本的伝統を再評価し、行動として示すことこそ、今日本がなすべきことだと思います。国際社会においても、わが国は、徹底的に、異文化・異宗教の仲を取り持って、つなげ、そして、異なるものの共生や交流をお手伝いするといった活動にもっと積極的になるべきです。

主権者の権利と義務についても検討する必要があります。もちろん基本的人権は主権者の権利として引き続き深化、保障されていくべきですが、それに加えて、現在生きる人々だけではなく子々孫々の育成あるいは繁栄のために、生存環境を守るということが義務として再構築されるべきだと考えます。

また、市民、国民が自発的に社会のために何か貢献をしようと活動する、そうした活動を促進する社会システムを考えなければならないと私は考えます。権力による強制ではなく、情報を得て、利他の意思をもった個人が、公共圏における熟議に参画することよって、現場関係者による自発的な協働が発生し、諸問題の解決が図られるような新たなガバナンスを構築することが必要になります。人はどういうときに自発的であるのか?その活動に共鳴し公共圏に発信するにはどうすればいいのか?などまだまだ議論の余地があり困難な課題もありますが、さらに、検討を深めていきたいと思います。

すべての市民・国民の手による憲法制定を

次なる憲法、次なる時代というものにおいては専門家も一般人もありません。学者・識者の方々は確かに現在の憲法については専門家です。しかし新憲法の専門家ではありません。すべての国民に新憲法考案に参画する資格と責任があり、すべての人たちの意見と行動が必要とされています。そうしたすべての方々の発言、行動、イニシアチブというものがハーモナイズすることによって、新しい時代の憲法は形づくられていくのだと、国民の皆様が自覚し、そして誇りを持ってそれに取り組んでいただければと思います。またそうなるように、国会議員は、国民全体の議論を喚起しそして適確にその議論を深めるという、進行係あるいは編集者として、その使命を全うしていかなければならないと考えております。
その際には、いかに、この多様で多層な民意をきちっとくみ上げていくか、また民意というものが進化するもの、流動的なものだということも十分留意して取り組まなければなりません。そして、これからは、コミュニケーション、ハーモナイゼーション、コラボレーションがより大切にされる社会であるということを、表明、宣言をしていきたいのです。より良い社会を求めて、私は全力を尽くします。



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