お断り:このページは、旧サイトのデザインになっており、ナビゲーションメニュー等が一部異なることをご了承ください。
 
 自主性ある外交を! 〜イラク戦争に物申す〜

   「We got him」―12月14日、日曜日の夜、世界中をフセイン元大統領拘束のニュースが駆け巡りました。バクダッド侵攻から約八ヶ月、過去の一国の元首は、穴蔵での逃亡生活に遂にピリオドを打つことになりました。アメリカのブッシュ大統領は素直に喜び、小泉首相もフセイン拘束の知らせを大いに歓迎しました。私も、混乱する同国の状況にひとつの区切りがついたという点で、それなりに評価をしています。ただし、だからと言ってこの戦争の正当性における疑義が拭い去れたのか、現状のままで自衛隊派遣を大いに是認する立場になるか、と言われれば「No」といわざるを得ません。


 ■ 戦争の正当性の検証を
 
 以前もこのスズカンタイムスやメール・マガジンでお伝えしたとおり、今回の米国によるイラクへの戦争は、世界史に逆行の一ページとして刻まれることになるでしょう。1648年のウエストファリア条約以降、自衛戦争しか容認しないという国際ルールを覆したわけですから、正当性の検証はしっかりとしなくてはいけません。
 言い伝えられているようにフセインがイラクの人々に対して行った数々の圧政も事実でしょうし、国際テロ組織との関係も否定できない面もあるでしょう。しかし、それを裁くのは、アメリカではありません。まずは、イラクの人々です。現実問題としてイラクの人々によるのが難しい場合には、国際法・国際ルールに則った国際社会による監視、対話、実力行使が求められるのではないでしょうか。即ち、イラクも構成員として参加している国際連合の枠組みです。さらに言えば、クリントン政権からブッシュ政権にかわって同意を撤回してしまった国際刑事裁判所条約の枠組みこそが、それに最もふさわしいのです。この条約に基づいて、大量虐殺などの罪を問うのがもっとも道理になかっているのです。
 私は決してフセインの統治を容認するわけではありませんが、今回のアメリカやイギリスの行動はあくまでも行き過ぎであったと考えています。フランスのシラク大統領が言ったとおり、「私も気に入らない統治者が世界には多く存在すると思っている。しかし、だからと言ってその統治者を権力の座から引きずりおろすほど、おごってはいない。」という言葉が印象に残っています。いずれにせよ、時間をかけてでも今回の戦争の正当性を日本人として、日本の議会としてしっかりと検証することが、歴史に対する責任と考えています。
 日頃、東京裁判史観に対して問題提起している保守政治家にも、今回のブッシュ政権が行っていることの是非を改めて考えてほしいと思います。今回のブッシュ政権のイラクへの対応は、ある意味、第二次大戦の開戦・戦争・占領時における、当時の米国政権の日本への対応と本質的な構造において似ている部分があります。最近の文芸誌でも話題になっているように、真珠湾攻撃をめぐる米国政府陰謀説が歴史研究のなかで有力説として確立しつつありますが、正義を装った独善の匂いがします。私自身も、東京裁判におけるインド人裁判官パール判事の論理と行動に強い共感を覚えるものの一人ですが、米・英両国政府が、どういう権利と正当性に基づき今回イラク攻撃を行っているのか? という問題について、60年前に米国と交戦し、原爆を投下され、占領され、軍事裁判(東京裁判)を受け入れ、連合国占領下で憲法制定を行ったという貴重な経験を有する日本として、その経験をもとに、米国の姿勢というものを、きちんと検証する必要があると私は思っています。
 同時に、こうしたブッシュ政権に対して、むしろイギリス・アメリカにおいて、批判的精神が発揮され、反省の世論が沸騰しつつあります。両国における独立自尊の大学人・言論人の見識の高さ、さらには、冷静さを取り戻した市民社会を見るにつけ、現ブッシュ政権への評価とは別にして、民主的市民社会の先輩として英・米の市民と社会には、その奥深さ、健全さに、改めて敬意を払うとともに、まだまだ、見習うべき点が多いなあとの思いも強くしている次第です。


 ■ 2人の外交官の死と自衛隊派遣
 
 フセイン拘束の前には、奥大使、井上一等書記官という2人の外交官が武装グループに殺害される、というニュースが、日本中に流れました。私にも、イラク大使館で勤務経験のある友人が何人かいますが、今回のお2人の殉職は本当に身につまされ、胸が痛みます。お2人のこれまでの活動に改めて敬意を表し、決して2人の死を無駄にすることなく、議会にいるものの責任として、私たちの求められる行動について議論を深めて行きたいと思っています。
 政府は、自衛隊派遣の基本計画を策定し、自衛隊がイラクに派遣されました。イラクに対し日本は、民生施設(軍事施設以外)に対する投資額が世界一である点、それと経済も生活も原油に相当依存し、その大半を中東から輸入している点からも、イラクの復興、安定は欠かせないと考えています。そういった意味からも、イラク復興に力を貸すのは当然と思います。
 一方で、国民である自衛隊員が危険にさらされ、調査や議論が十分でないためにまざまざと殺されるようなことがあってはいけません。私は、現場サイドから物事を考えていくタイプです。面子や立場や主義主張や虚構の上に立って政策決定をする立場とは、対極にありたいと思います。自衛隊が危険地域に派遣されることは事実です。自衛隊をそうした地域に派遣する以上、武器使用基準を見直すべきだと思っています。それに大儀はやはり大事です。国際社会のコンセンサスは絶対に必要です。コンセンサス形成の過程で新たな知恵が生まれ、より多くの関係者がもう一肌脱ごうという雰囲気が醸成され自発的な協力・貢献が重なり合っていくのです。
 政治とは、理想と現実の狭間のなかで、理想に少しでも近づくために、しかも、現実から遊離しないために、最大限の知恵を絞り努力を続けることだと思っています。自衛戦争のみがかろうじて許されるという国際法の大原則や、内政不干渉、国連中心主義といった原理・原則は決しておろそかにできません。
 一方で、フセイン暴政を放置しておけないという現実があります。この二つの課題を同時に解決するということは、本当に難問です。しかし、この難問に対して、今の政治家はもっと苦悩すべきです。知恵を出し切ったあげくに出てきた結論であれば、やむを得ないでしょう。少なくとも、査察をもう少し粘り強く続けるべきでした。実力行使は、万策尽きたときの、やむにやまれぬ最終手段であるという第二次世界大戦以後に人類が再度確認した国際ルールについての基本認識が、ブッシュ大統領・チェイニー副大統領・ラムズフェルド国防長官からは微塵も感じられません。それに追従した小泉首相も同罪です。
 ブッシュ大統領も、小泉首相も、今回の実力行使が、他に取り得る手段が残っておらず、万策尽きてやむをえない措置であったこと。かつ、それ以外の方策がないか、あらゆる角度から、熟慮に熟慮を重ね、しかも、実力行使や無実の人々のへの被害が必要最小限となる方法についても熟慮・熟考がなされたということについて、論証し、説明する必要があります。この点の説明が全く欠けています。
 国民である自衛隊員を派遣するのです、から、その内容を国会で議論し、チェックするのは文民統制の観点から当然のことです。しかし、小泉総理や石破防衛庁長官は、全くかみ合わない答弁ではぐらかし、政府・与党サイドで国会審議をただ時間消化に徹する裏で、どんどん既成事実を積み上げていっているように思えます。こうした点についても、やはり国会だけでなく、国民の皆さんとタッグを組んで明らかにされなければ、派遣される自衛隊員もつらいでしょうし、私たちも納得できません。


 ■ 哲学なき対米追従外交が一番危ない

 やはり、こうしたことの原因は、小泉総理を筆頭に、外交哲学、国家の自主性を重んじる姿勢が欠如していることにあると思います。アメリカ追従という点だけが明確です。親子三代、米海軍の重要拠点である横須賀を地盤に政治活動を続けてきた小泉家の宿命としては、米国に追従せざるをえないのでしょうが、日本のメディアは、国民の皆さんに、こうした小泉総理の本質を十分明確に伝えるべきだし、国民の皆さんも、そのことを理解した上で小泉さんの総理大臣として適・不適を判断すべきです。
 アセアン諸国とのFTA交渉も遅れをとり、北朝鮮問題は進展せず、イラク問題ではアメリカ追従、この国に外交政策がないといわれてもしようがありません。
 民主党は明確にアジア重視と国連協調を訴えていますし、私自身も、「コミュニケーション外交」・「ソフトパワー」をキーワードに、地道な対話の継続こそが実質的な安全保障につながるという思想と手法を広めていくことこそ大事だと考えています。
 
 イラク・パレスチナで紛争に解決の糸口が全くみえない一方で、二年前のインド国会襲撃事件以来緊張が高まっていたインドとパキスタンとの関係がこのところ大幅に改善しました。双方がカシミール地域から自主的に兵を引きました。これこそ、対話を機軸とした粘り強いコミュニケーション外交の勝利です。この外交に敗者はいません。この二年間、ブッシュ政権によるハードパワー外交が紛争に火に油を注ぐだけで何ら解決に糸口がみえないなかで、急がば回れで、粘り強い対話によってインド・パキスタンの関係改善が図られたことに我々はもっと注目すべきだと思います。
 カッコいいカウボーイについていくのもいいですが、我々は哲人・賢人たちと共に歩んでいくべきだと思います。私は、西欧文明が引き起こした欲望主義・経済至上主義が世界中に蔓延した、そのなれの果てが今日の争いの元凶にあると思っています。私は、中国やインドという確固たる哲学をもったアジアの国々との連携を柱に据えています。(もっとも最近の中国は、近代西欧文明主義に毒されかけており、そのことを中国に戒めていくことも含めて)西欧文明と東洋哲学の融和の掛け橋になるという日本の立場がクリアーになればなるほど、サポートし仲間となってくれる国も増えることでしょう。やはりこの点からも、一刻も早い政権交代が必要と再認識するところです。



←BACK ↑TOP