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 法務委員会における質疑に関して
 
 今国会でも、合計10回の質疑に登壇いたしました(別表をご参照下さい。質疑の内容は、こちらをご覧下さい)。ここでは、まず皆さんに、私の主務委員会である法務委員会での質疑の様子をお伝えさせていただきます。

 法務委員会で扱われる問題は、六法に関連するものや司法制度に関わるものが中心となるため、その道のプロフェッショナル達が集まります。また、善し悪しはさておき、法務委員会は“第二の懲罰委員会”(懲罰委員会とは、議員が何か不祥事を起こした際に、その処分などを話し合う委員会。議員を裁くという特性上、各党のお偉方が委員となっている)と呼ばれており、一期生、それも下から数えて何番目という私にとっては、その審議内容もさることながら、お歴々の前で、しかも、閣僚経験随一の森山法務大臣と堂々と論陣を張らなければならないという意味で、質問の都度、議員としての器を試されているような感覚でした。
 民主党の委員は、議員会長の角田義一先生(弁護士)、法務委員会理事で、民主党・新緑風会副会長の千葉景子先生(弁護士)、そして、かの有名な江田五月先生(弁護士)と不肖・鈴木 寛と言った具合です。また、民主党出身の本岡昭次参議院副議長も法務委員であり、つい最近まで副議長が委員会に出席するとは知らずに、委員会室でお会いしてびっくりしてしまいました。他党では、自民党は青木幹雄幹事長(超大物)、公明党は浜四津敏子代表代行(弁護士)、社民党は福島瑞穂幹事長(弁護士)など、本当に皆さんもよく知った面々が並んでいる委員会です。実務に長けた弁護士出身の議員か、長年の経験を持つ議員が属す委員会ですが、そんななかで私が法務委員になったのは、先の臨時国会で法科大学院構想の問題があり、大学政策専門の鈴木 寛を加えようということと、このたびの通常国会は司法改革関連法案を一挙に審議するため、戦後の法務委員会史上、最多と言ってもいいくらいの盛りだくさんの内容で、毎週のように行われる社会の基本法の見直しに関する難解な法案質疑に十分に対応し、かつ、そうした法律論争に新たな息吹を吹き込んで欲しいとの執行部からの要請によるものでした。
 最近では、おかげさまで、質疑が終わると、与野党の先輩議員から、「今日の議論は中身が濃かった」とか、「聴いていて勉強になった」とか、お声をかけていただき、私の法律論も法務関係者のなかでは一目を置かれる存在になったのかなと思います。
 そんな法務委員会で、今国会では五回の質疑を行いました。法務委員会は、ある意味で、立法府の中の立法府と言われることがあります。法律を専門とされない方でも「六法」という言葉はお馴染みだと思いますが、この六法のうち憲法を除く五法、即ち、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法という国や社会の基本法を担当しているのが法務委員会です。基本法ですから、従来その改正など滅多に行われなかったのですが、近年は、司法改革、経済社会構造の改革のために、こうした基本法の改正が活発化しています。今国会は、なんと民法、商法、民事訴訟法のいずれもが改正されるという日本法制史上のエポックとなる国会となりました。17年前は、私も一人の法学生として、こうした基本法を勉強しましたが、まさか、自分がその改正に携わるとは思いもよりませんでしたし、また、来年からは、全国の法学部で我々が議論したことが講義されるわけですし、さらに、すべての裁判所で我々が議論した基本法に従って裁判が実行されるわけですから、こうした改正の現場に法案審議の主役のひとりとして参画できましたことは、若き頃、法学を学んだものとしては、感激ひとしおでありました。
 私事で恐縮ですが、学生時代ゼミで大変熱心にご指導をいただいた菅野和夫先生(現在 東大法学部長)が、今期をもって退官されますが、少しばかりの「はなむけ」になるかなあとも思っています。

 7月8日には、裁判の迅速化に関する法律案、民事訴訟法等の一部を改正する法律案及び人事訴訟法案の一括審議に登壇し、民事訴訟法を中心に質疑を行いました。この法案は、一審の判決を2年以内に早めることを目標とし、そのために必要な措置を講ずるためのものです。私が中心に取り上げたのが、知的財産とその訴訟についてです。法改正の趣旨は、著作権などの知的財産に関する訴訟を、東京と大阪の地裁に集中させて受け付け、東京と大阪の地裁ではその道のプロフェッショナルとも言える専門官・裁判官を充実させ、迅速かつ充実した審理を提供しよう、というものです。折りしも同日、政府の知的財産推進本部の会合が開催され、「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」が決定されましたので、今回の民事訴訟法改正と絡めて、来年の通常国会で法案提出が予想される知財法制を中心に質疑させていただきました。特に、知財高等裁判所構想や、知財の物権的構成と債権的構成の議論をはじめ、知財法制に関する重要論点について、秋から本格化する知財法制議論に指針を示す意味でも、持論を展開させていただきました。アメリカのプロパテント政策は、今をさかのぼること20年以上、そのおかげで知財産業がアメリカを下支えしていることは疑いようもありません。アジアでもタイなどの国々でそうした戦略が既に進められているなか、わが国が遅まきながらですが、知財戦略に本腰を上げよう、という姿勢には諸手をあげて賛成するところです。私も経済産業省及び慶應義塾大学におりました頃から、日本の知財戦略や情報社会における法制のあり方について研究を積極的に進めておりましたので、そのスペシャリストとして思いのたけを述べさせていただきました。『知的立国日本』創造のため、今後も積極的にこの問題に取り組んで行こうと、気持ちを新たにしました。

 7月17日には、「商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律案」について質疑に立ちました。これは、自公保三党の議員立法によるもので、平成13年のいわゆる金庫株解禁に続く措置で、これまで株主総会での決議が必要だったものを、取締役会の決議のみで決定できるようにするものです。私は、組織再編や持合解消のために自社株所有の必要性は十二分に認める立場ですが、株主総会がノーチェックのまま、取締役会のみの決議でいつでも何でもできてしまうという今回の改正は、執行部の経営判断の巧拙が、株価に反映されにくくなることにつながりかねず、コーポレイト・ガバナンス改善に逆行してしまう理由と、日本版SEC(証券取引委員会)が整備されていない現状では、一歩間違えばインサイダー取引などの不正を助長しかないという理由で、民主党は反対せざるを得ない状況でした。 私の問題意識は、日本経済復活の起爆剤は、政府の経済政策の建て直しに加え、不振企業における経営陣の刷新にあると思っています。多くのメーカーや商社が、経営者の果敢なリーダーシップによって見事に再建されているのを見るにつけ、安定経営型の経営者を排し、強いリーダーを経営陣に据えることの意義は、いくら強調してもしすぎることはないと思いますが、そうしたなかで、経営陣の刷新や優秀な人材の抜擢・登用を推進するために、この改正が果たして良いことなのかどうかという視点で、終始議論を挑みました。

 7月22日には、「担保物権及び民事執行制度の改善のための一部を改正する法律案」について質疑に立ちました。この法案は、いわゆる競売妨害、執行妨害を行う占有屋に対し、執行官が正当な差し押さえなどの行動を行いやすくする法改正であります。大筋で法案自体には賛成しましたが、私が関心を持って取り上げたのは、不特定占有者に対する明け渡し命令についてです。 大陸法系の流れを汲む我が国の民法・民事訴訟法では、訴訟物を厳密に特定するのが大きな特徴でありました。ところが、今回、次々と入れ替わったり、誰か判明できない悪質な占有屋に抗する改正として、対象を特定しないで執行できる改正案を出してきました。この改正は、学者の議論を超越して、日本の民法・民事訴訟法の法制史に残る大英断に法務省が踏み切ったと率直に評価いたしました。この考え方を類推していけば、例えば、コンピューター・ソフトウエアの不正使用などについての一つの有効な解になる可能性もあって、極めて貴重な立法例になると思います。いずれにしても、従来の法体系に歴史的な転換を加えるものであることが事実で、これが例外なのか、それとも今後の立法の流れを変えていくのか、そうした法体系全体の話について、法務省民事局長と相当高度な法律論を戦わせました。日本の法体系に対して、どういった哲学、理念を持って、それぞれの改正にあたるか、地道な作業ですが、決して欠落することが許されないトピックです。民事局長との議論を聞いていた森山法務大臣にも、私が指摘したような議論の重要さを認識していただいたようです。

 今回の質疑にあたって、民法・民事訴訟法の分厚い教科書・参考書を15冊ほど国会図書館から拝借してきて、勉強をしなおしましたが、明治の元勲、伊藤博文が民法制定に大変なエネルギーを傾注したことを改めて確認しました。伊藤らとともに国会開設に尽力した大隈重信も国際法に極めて深く通じていましたし、彼は、法律教育充実のために東京専門学校(今の早稲田大学)まで創設しました。早稲田大学をはじめ、明治大学、中央大学、法政大学、日本大学など、今をトキメク私学の雄の多くが、法律の専門学校として発足したのです。法と国造りは表裏一体なのです。
 
 今国会でも、国会議員の不祥事が続発しました。国会議員の権威は、地に落ちたままです。一度、失った信用を取り戻すということは並大抵のことではありませんが、世間の風雪に耐えながら、ひたすらに、その本分をしっかりとまっとうし続けていくことによって、信頼というものは回復していくのだと思っています。そして、他人がどうであれ、まずは、自分が、気が付いたことを、気が付いたときから開始していくことだとも思っています。 議員の本分とは何でしょうか? そうです、「立法」です。小学校でも中学校でもそのように教えられています。「立法権」だけは国会議員が独占させていただいているのです。本分や原点がぐちゃぐちゃになってしまった今日のようなときこそ、もう一度、原点に立ち返って、その本来の仕事を着実に担っていくことが大事だと思っています。真の立法者が実に少ない今の国会において、「よりよい立法者になる、立法に最善を尽くす」、これを国会議員たる私の原点だと肝に銘じ、今後とも、よりよい立法審議に力を傾注していきたいと思っております。勿論、立法以外にも国会議員の仕事はたくさんあります。他の議員の生き様に意見するつもりは毛頭ありません。しかし、一人ぐらい文字通りの国会議員がいてもいいのではないかと思います。多くの方々から、立法者としての資質を磨いていただいた私が、その一人を担うべきだと思っています。
 このように地道に法律づくりに励んでいても、ワイドショーは取り上げてくれません。それでいいのです。しかし、私は今後も、目立たないけれども大事な仕事に、複雑で難しすぎて世間から注目されず敬遠される仕事にこそ、励んでいきたいと思います。


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